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クジラ雲と

2012.02.18 02:22|散文
なつかしの小説再掲載シリーズ第一弾(笑)

わたしが高校1年から2年の過渡期頃に書かれた作品ですね
思いついたままにするりと安産したのが印象的です
もともとは「標高の高い場所で雲の中に入る」という
場面を描きたくて書いたのでした…
そこはすごく力を入れていました
全体的に書いていて楽しかったですね

ざっくりいうと、
少年と少女の出会いを扱った
ローファンタジーというところでしょうか

実は続きも多少は考えてあるのですが…
はたしていつ書けるのやらです



一頭のクジラに引き連れられて、雲の群れが赤紫に染まりつつある空を泳いでいく。今日は昨日よりも少し風が強いみたいだ。
山の向こうに夕焼けがキレイに見えるから、きっと明日も晴れるだろう。
「よかった」
少年は頬をくすぐるつゆ草のつるりとした葉を指先でいじくり始めた。そうするうちに、段々顔がほころんでくる。
明日はいよいよ、待ちに待った“あの日”なのだ。
「将汰(しょうた)! こんなところにいたの? そろそろ帰ろ。明日の支度とかしなくちゃ」
「あ! ちょ、ちょっと待ってよ、お姉ちゃん!」
将汰は勢いよく草むらから飛び出すと、慌てて姉のもとへ駆け寄ろうとする。
「あっ! ……」
 彼は何かを思い出したように小さな叫び声をあげると、くるりと回れ右をした。
「白くてデカいクジラさん‼ 明日も晴れにしてください!」
大声でそう言ってガバっと頭を下げる。
「明日は絶対に……!」
「将汰、何してるの?」
「なんでもなーい! 今行くー」
 少年は再び走り出した。
 茜と紫に染まる空は、大きな雲の背中も温かく燃やしていた。

       #

将汰はある夢を見る。
毎晩、毎晩、同じような夢。
将汰は今夜も一人で空へとやって来た。
今日の空は鮮やかな青。ここに太陽があるのかはわからないが、辺りはヒカリに満ちている。 
少年はそんな空をいつもよりいっそう眩しく感じて、そのヒカリを避けるように手をかざす。
「クジラさん……?」
やけに雲のない空ばかりの空間に、将汰は少し不安になった。
そのとき、彼方から大きな白いものが近づいてくるのが見えた。
「クジラさん!」
 将汰は大きくてやわらかい雲のクジラに近寄ろうと、空中を泳ぐように移動する。
将汰はほぼ毎晩ここであの雲に出会う。そして、その背に乗って雲たちと空中散歩をすることが何よりの楽しみなのだ。
たいていは、ただ将汰が好きなことを話しているうちに朝になってしまう。けれども、時にはクジラ雲に乗って小さな雲たちと追いかけっこをしたり、いくつもの雲の背中をぴょんぴょんと跳び回ったりもする。
今日はいつものようにその背にまたがって、待ち焦がれていた明日のことを話して聞かせようと思っていた。
「あ‼ ……れ?」
 あと百メートルというところまで来たときだった。
「だ、だれ……⁉」
 彼は進むことをやめて、ただじっと流れていく大きな雲を見つめていた。白いクジラはゆっくりと背を向けて、悠々と泳ぎ去っていった。
 遠目にではあったが、将汰は確かに見たのだった。
その背に座っている、小さな人影を。

       #

 目が覚めると、将汰はきつくまくらを抱きしめている自分に気づいた。そっと手を開いて見ると、汗をかいてじっとりと湿っている。なんだかとても怖い夢を見たような気がした。
 雲のクジラに会ったのに、その背に乗らなかったのは初めてだった。あの夢の中で、自分以外の人を見たのも初めてだった。
「んん……」
 将汰は布団の端をぐっと引き寄せ、体を丸めて小さくなった。
「あれ? 将汰⁉」
「うわぁっ!」
 ぎゅっと握りしめていたはずの布団が力強くめくられる。
「いつまで寝てるの? 今日は早く起きるとか言ってなかった?」
「お姉ちゃん……?」
「もう、寝ぼけてないで! 置いてかれちゃうよ?」
「え? ――ああっ‼」
 そこでようやく将汰はとても大事なことを思い出した。
「遊園地っ‼」
 今日こそ、待ちに待った“あの日”だった。
 急いで支度をするうちに、すっかりあの夢のことは忘れてしまった。

     #

「ねぇねぇ、着いたらソフトクリーム買ってぇ」
「えぇ! 最初はジェットコースターとかに乗ろうよー」
「ソフトクリームが食べたいのぉー!」
のろのろと山道(やまみち)を登る車の中で、姉(きょう)弟(だい)の明るい声が響く。昨日の“お願い”が通じたのか、今日の空は鮮やかに晴れ渡っている。
 朝のあの不安な気持ちはどこへいったのだろう。将汰はすっかりごきげんだ。
 この日に山の上の遊園地へ出かけることは、もうだいぶ前から決まっていた。それに、これが夏休み最初の家族そろっての外出ということもあって、将汰はずっと楽しみにしていた。
「さあ、着いたぞ」
 そう言ってエンジンを止めたお父さんも、なんだか楽しそうだ。
 開園からまだ一時間ほどしか経っていないが、広い駐車場には、早くもたくさんの車が並んでいた。

 車から降りると急に涼しい風に当たって、将汰は驚いて腕をさすった。
「お姉ちゃん、なんだか急に寒くなったよ」
 下界はもう蒸し暑い季節なのだが、ここは肌寒く感じるほどだ。
「うん、そうだね。ここはだいぶ高いところだもんね」
「ほら、二人とも。そろそろ行くぞ」
 お父さんに急かされて、二人は慌てて歩き出した。

 少し歩くと、風に乗って白いもやのようなものが流れてきた。
「ねえ、霧が出てきちゃったよ?」
 将汰が不安そうな声で言った。
「あぁ、これは雲だよ」
 お父さんがさらっと答える。
「えっ⁉ 霧じゃないの?」
 将汰は思わず目を丸くした。
「うん。霧が出るような時期じゃないよ。雲がいつもより低いところを流れているから、ちょうどこの山にもかかったんだな」
 大人にとっては、たいしたことではないようだ。けれども将汰にとっては、それはありえないことだった。
 雲の傍にいるということ。それは、彼にとっては夢の中にいるということと同じなのだから。
「じ、じゃあ、僕は今雲の中にいるの⁉」
「ん? まぁ、そういうことだけど――」
「うわぁ、すっごーい‼ 僕、雲の中にいるよぉ!」
 ここでは白いもやにしか見えない、いくつもの雲の切れはしは、走り抜けるように将汰の目の前を通り過ぎる。あちらの景色が見えなくなったかと思うとまたすぐに晴れて、今度は向こうの景色がさっと隠れる。
 普段見上げるばかりの雲はあんなに小さくて、ゆっくりと動いていくものだけれど、今ここを流れていく雲たちはこんなにも大きくて、どんどん形を変えながら消えていく。
 その様子に心を奪われた少年は、両目を大きく見開いて辺りをきょろきょろと見まわした。
「どうしたんだ将汰。そんなにおもしろいか?」
 しかし、少年にはもはやその声は届いていなかった。ただ唐突に感じ始めた、ある不思議な感覚だけに捕らわれていた。
――だれかが、呼んでる?
彼はその直感に従ってずんずんと歩いて行った。
「おい、将汰! どこに行くんだ⁉ 遊園地はこっちだぞ。おい、将汰‼」
 少年の後ろ姿は、雲の切れ間に吸い込まれるようにして消えていった。

       #

「あれ? ここは……どこ?」
 気が付くと、将汰は背の高い真っ直ぐな木々に囲まれた場所にいた。そこは薄暗くて森の中のようだった。あいかわらずたくさんの雲が周りを流れ続けている。
「うわっ!」
 将汰は叫んで、とっさに一歩後ずさった。
 突然、雲の中から湧き出るようにして、一人の少女が現れた。純白の裾の長い着物をまとった、将汰より少し幼い感じの女の子だ。
「君は……だれ?」
 初めて出会ったはずなのに、なぜか昔から知っているような、前に会ったことがあるような気がした。
「あたしは、美(み)水(すい)」
 彼女は風のように透き通った、高くてかわいい声でそう名乗った。
「将汰くん、ちゃんと来てくれたのね。あたし、うれしい!」
「えっ⁉ なんで僕のこと――」
「あら、だって将汰くん、いつもあたしのこと見ててくれるじゃない!」
 美水は空色の瞳を輝かせて、嬉しそうに笑った。その長い黒髪が風に吹かれて宙を泳ぐ。
「昨日は驚かせちゃったみたいで、ごめんね」
「あっ、じゃあもしかして――?」
「そう。昨日クジラ雲に先に乗ってたのは、あたし」
 美水が優しく微笑んで後ろを振り返ったので、将汰もつられて遠くに目をやった。
 ゆっくりとあの白いクジラが近づいてくるのが見えた。

       #

「あたし、将汰くんにお願いがあったから呼んでたの」
 そう言って美水はクジラ雲の口のあたりから何かを取り出した。
「僕にお願い?」
「そう。これを、持っていてほしいと思って」
 将汰は黙って手にのせられたものを見た。それは中に白い煙のようなものが入った、ちょうど両手で包める大きさのガラス玉だった。
「これは何?」
「それは、ある特別な雲が入れられたもの。空の神様が創ってくださったものなの」
 美水はそっと透き通ったガラス玉を撫でた。
「これを、次にあたしたちが会う時まで、将汰くんに預かっていてほしいの。ちょっとのことじゃ割れないけど、大切に持っていて」
「いいけど……なんで? すごく大事なものなんでしょ?」
 将汰は少し困って、首をかしげて美水を見返した。
「大事だからよ。今はまだ理由は言えないけど……そのうち、自然とわかると思うわ」
 美水はぽんっと将汰の肩を叩いた。
「さぁ、そろそろみんなのところに帰らなきゃ! あんまり遅くなったら心配されちゃうでしょ」
「あ、遊園地っ!」
 あんなに楽しみにしていたことを、こんなにすっかり忘れていた自分に驚いた。将汰はそっとガラス玉をリュックにしまった。
「じゃあ、あたしの後ろに乗って」
 美水は軽々とクジラ雲の背に飛び乗った。
「えぇっ‼ の、乗れるの⁉」
「うん、もちろん」
 美水は当たり前のように大きくうなずいた。
 将汰は思わず自分の頬を思い切りつねった。
「痛っ‼」
「あはははは」
 美水はそんな将汰を見て笑い転げた。
「いつも夢の中では乗りたい放題でしょ。今日は特別よ! もとの場所に戻るまでね」
 将汰はごくりと唾を飲むと、えいっと勢いよくクジラ雲にまたがった。
「うわー、本当だ‼ 夢みたい!」
 実際に乗る雲は、夢の中よりもずっとやわらかくて優しい感じがした。冷たくておしりが濡れてしまうのではと心配だったが、クッションに座っているようでとても乗り心地が良かった。
「よし、じゃあ出発!」
「うおっ!」
 ふわりとほんの少し浮き上がると、二人を乗せたクジラ雲は滑るように泳ぎだした。

       #

 やがて見覚えのある車の列の横に、白いクジラと二人の子供が降り立った。
「到着!」
「ありがとう、美水!」
 将汰は嬉しそうにそう言ったが、もう別れなくてはいけないのだと思い出して、寂しそうにクジラ雲の頭を撫でた。
「もう行っちゃうの?」
 美水も寂しそうに微笑んだ。
「うん、もう行かなきゃ。将汰くんと会えて楽しかったわ」
 美水はもう一度クジラ雲に乗った。
 将汰は黙って手をおろした。
「またいつもみたいに空を見ててね。あたしはいつでもこの雲に乗ってるから。将汰くんが見てるのに気付いたら、手を振るね」
「うん、ぼくもクジラ雲を見つけたら手を振るよ。約束だよ!」
 二人は精一杯手を伸ばして指切りをした。
「うん、約束!」
 美水は現われたときと同じように、雲の間に溶けるようにして去っていった。
「約束……だよ」
 将汰は美水の姿が見えなくなっても、彼女が消えていった方をじっと見つめていた。
 けれどもすぐに、背後から懐かしい声が聞こえた。
「将汰‼」

       #

 今日は風が穏やかだ。だから雲ものびのびとしていて、動いているのがかろうじてわかる程度。
 将汰はまた土手の草むらに横になって空を仰いでいた。すでに濡れて光っている手の甲で、とめどなく額に浮かんでくる汗を拭う。あの日からまだ一週間と経っていないけれど、本格的に夏がやってきて一段と蒸し暑くなった。
 あの後、お父さんの声に気づいて振り返ると、すぐに家族がやって来てくれた。将汰はずいぶん長い時間離れていたように思っていたのだけれど、実際はほんの一瞬だったらしい。一言注意を受けただけで済んだので、将汰は心底ほっとした。遊園地はとても楽しかったし、ソフトクリームも食べられた。
「よいしょっ」
 将汰は脇に転がしていたガラス玉を両手で持ち上げて、鮮やかな青い空に透かして見る。中の白いもやが雲のように浮かんで見えた。

 遊園地で遊んでいる時には全く気に掛けもしなかったが、自分の部屋に帰って来てすぐに将汰は大事な預かりものを思い出した。
「美水のガラス玉!」
 そう小さく叫んで、いそいそとリュックをベッドへ持っていく。そして、なにか大切な秘密を扱うように、まくらの上にそっとそれを取り出した。
「これ、なんなんだろう……?」
 中の白いもやが誘(さそ)うように渦巻いている。その様子を見ていると、なんとなくそうしてみたくなって、将汰は冷たいガラス玉を静かに自分の耳にあてた。
「あれっ‼」
 さっと耳から離してもう一度ガラス玉を確かめると、急いでまた耳にあてる。
――とくん
 その響きは、どこか自分の体を流れる営みの拍動とよく似ていた。手の上で転がしてみると、ガラス玉が緩やかな楕円形を描いているのがわかる。
 やがて少年は柔らかく微笑んで、それをそっと両手で包んだ。
 そのとき彼は、こうして夢はまた続くのだと思った。そして、こうして夢はまた現実になるのだと……。

 しばらくして、将汰はまたガラス玉をやさしく草の上に下ろした。
「あっ!」
 将汰はむくっと起き上がると、空に向かって大きく手を振った。
「美水、見てるかな?」
 大きな雲がいくつかの小さな雲を引き連れて、山の向こうから顔を出した。なかなか近くまでやって来ないので、じれったくなってもっと激しく手を振る。
「クジラ雲、もっと速く泳げ! がんばれ!」
 ようやくその全身が現れたとき、雲の上から少女が手を振り返すのが見えたような気がした。
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テーマ:自作小説
ジャンル:小説・文学

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