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the star in her eyes

2011.09.02 00:25|散文
 美しかった長い黒髪を、彼女は肩の上でバッサリ切って、明るい金髪にしてしまった。控え目に言っても、彼女には黒髪がふさわしい、というか、金髪は彼女の落ち着いた雰囲気とはどう考えても不釣り合いなのだ。
 僕が彼女を気になっていたのは、本当のところ、それよりもずっと前からである。

 彼女の服装には統一感がなかった。それこそ黒髪に似合いの清楚で大人っぽい服であることもあれば、比較的露出度の高い、金髪が映えるセクシーだったりタイトであったりする服の時もある。そうかと思えば、民族衣装のようなボヘミアン、エキゾチックで奇抜なアジアンのような時もあったし、淡い色合いの可愛らしいガーリーや、装飾の多くてボーイッシュなゴスパンク風の時などもあった。
 その化粧もまた、その時々で違っていた。派手であったり、薄かったり、汚れ化粧だったり、時には、すっぴんである時もままあった。

 彼女はおそらく、相当な気分屋なのだ。
 性格さえ、その日その日で異なっていた。恐ろしく愛想のない日、彼女は最低限以上に口を開くことはないし、人と目も合わせず、冷淡とも評せそうなほどにそっけない態度を示した。反対に、異常に他者を求める日、彼女は誰彼かまわず声を掛けては自分のことを話したがり、非常に嬉しそうに相手の話を聞き、ともすれば腕をからめ、肩をたたき、頬を突つく。
 そんな彼女を、人々は気味悪がって遠巻きに傍観している。暗黙の内に沈めようとする。そしてそれは、誰もが彼女の中に各々の一部を垣間見るからなのだ。


 ある日の夜、僕は偶然にも彼女の乗る電車に乗り合わせた。彼女は見るからに疲れた様子で、髪も結び目が緩んで後れ毛がだらしなくはみ出し、一人放心したように窓の外を見つめていた。僕は、彼女と3、4つほど離れた吊革に手を掛けた。僕もなんとはなしに、窓の外に目をやる。
 町明かりが汚れた車窓の向こうを流れる。僕は遠い昔に本で読んだ言葉をふと思い出す。こうして流れていく明かり一つ一つの下に、今日を生きた人々の生活があるのだ。
 不意に明かりが減って、鏡になった車窓に映る人影が目に飛び込む。と、窓を介して彼女と視線が合った。彼女が僕の方を振り向く。それに合わせ、僕も彼女の方に顔を向ける。まるで示し合わせたように、僕らは静かに見詰め合った。そして気付く。彼女の瞳の澄み渡って美しいことに。
 瞬間、彼女の両目に音もなく涙が盛り上がった。零れる、と思った刹那、彼女は顔をそむけて乱暴に目頭をぬぐった。僕の心は黙って震えていた。僕にはわからなかった。わからないままに、僕は彼女の瞳を通して何かを、彼女の内の何かを透かし見たのだという直観があった。そうしてそのまま、永遠のような数分間がまた流れていく。

 次の駅で、彼女は逃げるように車両の外へ飛び出していった。何の考えも理由もなく、僕は彼女を追った。ホームの階段を駆け上がってすぐ、彼女の細い腕を捉えた。しばらくそのまま、二人して息を切らして、何も言葉はなかった。ただ、じんじんと血が体を巡って、ただそれだけで胸が痛いような、苦しいような、そんな気がして顔をしかめていた。
「なんで、君は、泣くの」
 やっと出てきた言葉は、なんとも陳腐で幼稚に思えた。そんなことしか言えなくて、でも他に何を言いたいのかもわからなくて。
「あなたが、覗いたから」
 彼女の頬は濡れていた。静かに、呼吸も乱さず、彼女はしんしんとただ泣いていた。
「あなたが、初めて、わたしの中にある奥の、奥底の、わたしを見たから」
 彼女は苦しそうであった。
「君は、痛いんだね」
 ただ、僕も悲しかった。なぜだか、どうしようもなく胸が締め付けられた。
「そう、痛いの。苦しいの」
「でも、違うね。それだけじゃないね」
「そう、違うの。わたしは、苦しんでいたいの」
「そうだね……」
 やがて、気付くと二人の息は行きつ戻りつしていた。二人の間で空気がゆっくりと揺れていた。彼女が吸う、僕が吐く。僕が吸う、彼女が吐く……。
「でも、それでもいいんでしょう?」
「あぁ、それでもいいんだよ」
「だって、」
「そう、僕はそれでいいんだ」
 僕らはそうしてもう一度見詰め合った。彼女の両目は赤く滲んでいた。
「僕でもいいのなら、君が求めるときに、いつも傍にいる。僕でも、いいのなら」
 彼女の瞳の中で、冷たく白く、星が瞬いた気がした。
「ありがとう」
 それしか彼女は言わなかった。ただそれだけだった。
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