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2011.05.31 21:03|散文
 冷たいガラスごしに直射日光に甘えていた。高い空は相変わらず遠く遠くを漂っていた。
 わたしは窓ガラスに向かって寂しいのかと問うた。でもそれは窓の向こうで左右反転した、もう一人のわたしに対してだったのかも知れない。指先で触れようとすれば心の底まで冷やしてしまうような境界線を隔てて、わたしはまたぬくぬくと生暖かい同情と交じって自分をかわいそうに思う。そうすることで見えない傷を舐め、癒そうとするかのように

 ずっと意気地なしであった。それなので強くなる振りをして虚勢を張ってごまかした。他人の前で平気な顔をするにとどまらず、いつしかそれはわたし自身をも騙し始めた。
 わたしはずっと泣かなくなった。それで強くなった気がした。
 だけれど涙とは不思議なもので、自分の身に降りかかることについては姿を現さない代わりに、小説やドラマ、他人の不幸の前ではうんとわたしを泣かせた。いつでも涙腺は当のわたしを裏切るのだ。
 そのうち「悲しみ」を掴めなくなっていた。わたしの中に残っていたのは「寂しさ」以外の何物でもなくて。

 ある日、わたしは青い目をした美しい白猫に出会った。その時彼女は夜桜の太い枝の上に腰かけていた。
 わたしは彼女に「にゃあ」と控え目に挨拶した。彼女は「にゃお」と答えて静かに尻尾を揺らしていた。
 たぶんその日から、わたしは彼女になりたかった。時々道で会う彼女はいつも気高く優美で、生きる誇りに輝いていた。美しいものは残酷だ。わたしは彼女を見かけると心の古傷の痛むのを微かに感じていた。

 ボンタン飴を噛み締めるようにして昔のことを想う。猫である彼女を慕う。薄味の甘酸っぱさが口に広がって、最後にはなぜか苦くなる。
 月の下で日々は回った。わたしは彼女を失って、またずっと弱くなったくせ強くなったと信じた。
 人は無責任であるくせにお節介だ。しかしわたしは人を恨む気力さえなかった。
 そのうちわたしも人になっていく。心まで他人の色に染められて、所謂「普通」へと矯正される。
 だからわたしは。わたしはそんな陳腐な自分が嫌だ。誰かの嘘で簡単になびく、ひ弱な自分というわたしが。

 雨が香って、月が滲む。鼻の奥がつんと痛み出す。
 やがて枕が濡れた。

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